【コラム】中小企業の事業承継の留意点

近年、経営者の高齢化進展とともに事業承継が大きな問題となっています。

事業承継では大まかに「後継者の有無」と「自社の経営状態の良し悪し」によって承継の方法や対策のポイントが変わってきますので、現在事業承継の問題に直面している経営者はもとより、まだ先の話と考えている若手経営者もいずれ考えなければならない問題として参考にして頂ければと思います。

まず「後継者の有無」は子息等特定の人物が決定している場合と未定であるものの候補はいる場合、親族や社内に全く対象者がいない場合に分けて考えます。すでに後継者がいる場合、教育・段階的な権限の移譲・補佐する組織体制の整備などを計画的に取組していくことが必要です。同時に、株式移転に伴う税金、代表者退任に伴う退職金など資金面も検討していく必要があります。自社株式の評価方法を分析し適切な対策を講じることで納税額が大きく変わる可能性があるので、資金調達手段も含め取引銀行や専門知識の豊富な税理士等専門家のアドバイスを受けることも有益です。また、事業承継は自社株式移転で個人の相続と密接に関係するので、後継者の経営に悪影響を及ぼさないように事業用資産を移転しつつも親族間のバランスに配慮し、係争を避けることも肝要です。

後継者候補がいるものの未定の場合、要因を明らかにして対処していく必要があります。候補者が経営者として未熟だとすれば、計画的な教育と経験の機会提供を検討します。候補者が逡巡している場合は、その理由が個人保証の提供や自社事業の将来性への不安であれば、自社の業績や財務内容の改善が保証解除や不安払拭に効果的です。

後継者が親族もしくは社内に見当たらない場合はM&A(売)が有力な選択肢になります。近年、M&Aは急速に拡大し承継の手段として一般的になりつつあります。

一方で、「経営状態の良し悪し」も事業承継に大きく影響します。良好ならば、後継者の確保もM&Aも容易となり、むしろ企業価値の高さが税金など資金的コストの増大に繋がるので、いかにこれを抑えるかが論点となるでしょう。経営状態が芳しくない場合、業績・財務内容の改善を進めることが問題解決の糸口になります。自社だけでの対応が難しい場合、事業再生に詳しい専門家など外部人材の客観的なアドバイスを受けることができます。

事業承継は、企業経営及び経営者家族に大きな変化と負担が発生する可能性があります。承継を成功させるには、その重要性を認識し現経営者が元気なうちに自社に適した対策を早期かつ計画的に取組することが求められます。

公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターや商工会議所で無料相談が可能です。まずは自社の状況を正しく把握し、何が課題かを認識することから始めてみてはいかがでしょうか。(2024.2.1)

 


【コラム】「物流革新に向けた政策パッケージ」について

2024年問題など物流課題に対応すべく、2023年6月2日に「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」において「物流革新に向けた政策パッケージ(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/pdf/seisaku_package.pdf)が取りまとめられました。この中で、荷主企業、物流事業者、一般消費者が協力して、①商慣行の見直し②物流の効率化③荷主・消費者の行動変容についてとるべき対策が述べられています。中長期的に継続して取り組むため、次期通常国会での法制化も検討されており、一定の物量がある企業作成・報告が義務付けられる方向です。

 政策パッケージによると、具体的に以下のような施策に取り組んでいく必要があります。

①商慣行の見直し荷主・物流業者間における物流負荷軽減、納品期限(1/3ルール)の見直し、多重下請け構造の是正、トラックの「標準的な運賃」制度の拡充・徹底等

②物流の効率化「物流GX」推進(モーダルシフト等)、「物流DX」推進(自動運転等)、「物流標準化」の推進、特殊車両運行制度に関する見直し、ダブル連結トラックの導入促進等

③荷主・消費者の行動変容物流改善を評価・公表する仕組みの創設、消費者の意識改革・行動変容を促す取組み、再配達削減に向けた取組み等

 また、2024年度にむけて業界・分野別の自主行動計画の作成・公表も求められています。既に、全日本菓子協会や日本即席食品工業協会ではホームページに自主行動計画を掲載しています。

 中小企業においては、個社で物流効率化の計画を作成する必要はないと思われますが、業界団体の指針には従う必要があるでしょう。今後ますます物流課題が深刻化してきます。物流に関してお悩みがある企業は、ぜひ一度多摩中部診断士会へご相談下さい。(2023.12.11)


【コラム】信用保証協会の借入枠(保証枠)について

 中小企業経営者の皆様の関心事の一つに「借入」があります。会社ではさまざまな要因で資金が必要となりますが、この資金の有力な調達方法が「借入」です。多くの中小企業が金融機関を通じて「借入」を利用していますが、売上が10億円に満たない規模の場合、その多くは「信用保証協会」を利用していることと思います。これは公的な信用保証協会が金融機関に対して会社の保証人となって金融機関からの借入を円滑にする制度です。

 さて、この信用保証協会を利用した借入の「枠」をご存じでしょうか?自社が借入できる枠があとどれほど残っているのかを知っておくのは、先々の事業拡大あるいは投資を検討していく上でも有益です。結論としては8,000万円です。細かく説明しますと、通常の一般枠と別枠があり、それぞれ無担保枠8,000万円、有担保枠2億円があるのですが、有担保を利用する事例は少ないですので一般無担保枠の限度額を最低限把握しておけば十分です。ただし、あくまでも枠なので、財務内容を勘案してこの枠内で支援が得られるということで必ずしも全ての会社が8,000万円借入できるわけではありません。また、いくら財務内容が良くても8,000万円の枠を超えて信用保証協会を利用した借入はできません。ですから、例えばすでに7,000万円の信用保証協会を利用した借入の利用がある会社は、同様の借入は残り1,000万円しかできないとあらかじめ認識できるので経営判断で大いに役立ちます。

 実は借入枠(保証枠)は通常一般枠を利用しますが、別枠が利用されることもあり併用して利用されていることも多いです。これは保証協会や取引金融機関で確認できますので、必要に応じて照会したら良いです。

 会社経営にとって資金繰り管理は常に頭の痛い問題ではありますが、上記を一つの参考として頂き、財務や資金繰りでお困りのことがあれば多摩中部診断士会にご相談ください。(2023.12.3)


【コラム】詐欺などへの注意喚起

資金繰りに困った経営者さんのご相談を受けることが多いのですが、最近騙されたことで窮地に陥るケースがいくつかありましたので、その事例を紹介させて頂きます。

事例1:工場新設するため建設会社と契約したもののその建設会社が建設せずに逃げたケース。

このケースでは菓子製造工場を新設するために機械メーカーと工場レイアウトの相談をしていました。レイアウトが完成し合意したところで、メーカーから紹介された建設会社と契約。しかし、建設会社へ契約金50百万円を支払いましたが、建設会社は基礎工事だけでそのあとの工事を一切実施せずに逃げてしまいました。「大手メーカーの部長さんの紹介であったため、十分な調査せずに契約して支払ってしまった」とのことでした。

事例2:詐欺グループの投資話に乗ってしまったケース

内装工事業の会社が、社員が他社に引き抜かれて自社で仕事を受けられなくなり社長さんは焦っていました。そんな時に投資話が来たため、新たな収益源が確保できると期待して 真に受けてしまいました。具体的にはブロックチェーンに必要なマイニングシステム開発資金の投資話でした。この事例では特許を保有する技術者社長が国立大学のベンチャー企業の社長を兼務していることが信ぴょう性を高めることになっていましたが、バックには怪しい詐欺グループが暗躍していました。権威ある方を巻き込むことで本当の投資案件と判断させることが詐欺グループのやり口となっているようです。この投資話では現金取引が多くなっていることも注意してもらいたい点です。多額の現金を動かす人はブラックなビジネスを行っている可能性があります。

以上2点から、どんなに信頼できる人が絡んでいた案件だとしても、自分で十分に確かめてからでなければ決して資金を拠出しないようにお願い致します。(2023.11.15 )


【コラム】物流2024年問題について

物流は「産業の血液」であり、その主役となっているのはドライバーです。しかし彼らは、低賃金を長時間労働(ドライバーの残業は無制限)でカバーしているのです。しかし労働基準法が改訂され、2024年からドライバーの残業時間に上限(年間960時間)が設定されます。その結果、日本の経済に様々な問題が生じる可能性があり、「物流2024年問題」と言われています。2030年には約3割の輸送能力が不足するという試算結果もあります。今後、多くの中小企業にも影響がでてくるでしょう。

もし、物流に関してお困りのことがございましたら、多摩中部診断士会へご相談ください。

(2023.11.5 )


【コラム】建設業の2024年問題を考える

働き方改革の一環として、労働時間の短縮が叫ばれ、(特例はあるものの、)中小企業でも2020年から残業期間の上限が、原則、月45時間・年360時間とされきました。一般の中小企業はこれを超えると管理責任が問われる中、建設業だけは現状を踏まえ経過措置が取られてきました。

しかし、この経過措置が2024年4月に解かれ、建設業がこれに対応できるのかとの声が、方々から上がっているのが現状です。国の工事では、週休2日制を踏まえた工期の設定を行う等の措置もありますが、民間では早期の完成も競争力の1つであり、週休2日制すら難しい状況です。また、作業員不足、高齢化の他にも、作業場所が工事毎に代わり環境対応も大変など、建設業特有の状況もあります。

解決策の一つに「建設関係者間での情報のIT化・共有化による発注者~建設事務所、自宅~建設事務所~現場等の移動時間短縮」にあるのは間違いないと考えています。(2023.10.15 )